薬学部生みつきの創薬備忘録

主に化学や物理、数学などについて書いていきます。なお4年生の創薬科学科にいるため薬剤師国家試験の話題は少なめです。

微分幾何入門 (書きかけ)

この記事は「微分幾何入門 (森北出版)」の分かりづらい部分などを私なりに補完した記事です。

手元に「微分幾何入門」をおいて読まれることをおすすめします。

位相空間とは

多様体の話をする前に、位相空間の定義について述べておかなければいけません。

定義 $X$ を集合とし $\mathcal{O} \subseteq \mathfrak{P}(X)$ とする。

$(X,\mathcal{O})$ が $X$ を台集合とし $\mathcal{O}$ を開集合系とする位相空間であるとは次の3条件を満たすことをいう:

(i) 空集合と全体集合は開集合である。つまり

$$ \varnothing , X \in \mathcal{O}. $$

(ii) 2つの開集合の共通部分は開集合となる。ゆえに有限個の開集合の共通部分は開集合でなければならないが、無限個の場合はこの条件を満たしていなくてもよい。つまり

$$ \forall O_{1}, O_{2} \in \mathcal{O}, \, O_{1} \cap O_{2} \in \mathcal{O}. $$

(iii) 任意の個数の開集合の和集合は開集合となる。ゆえに有限個、無限個の開集合の和集合は開集合でなければならない。つまり、$\Lambda$ を $\mathcal{O}$ の添字集合として

$$ \forall \lbrace O_{\lambda} \rbrace _{\lambda \in \Lambda} \subseteq \mathcal{O}, \, \bigcup _{\lambda \in \Lambda} O_{\lambda} \in \mathcal{O}. $$

いきなりこんな定義を見せられて頭がくらくらすると思いますが、これを完璧に理解する必要はないです。

ただこれが同相写像を定義する上で必要なだけです。

重要なのは同相写像のほうです。

定義を述べましょう。

定義 $(X, \mathcal{O}_{X}), (Y, \mathcal{O}_{Y})$ をそれぞれ位相空間とする。

全単射 $f : X \rightarrow Y$ が同相写像であるとは次の条件を満たすことをいう:

$$ V \in \mathcal{O}_{X} \iff f(V) \in \mathcal{O}_{Y}. $$

特に同相写像 $f : X \rightarrow Y$ が存在するとき、$X$ と $Y$ は位相同型(同相)であるといい $X \simeq Y$ で表す。

例を見たほうが早いでしょう。

問題 開区間 $(0,1)$ と $\mathbb{R}$ は位相同型であることを示せ。

解答 $S=(0,1)$ としよう。

写像 $f$ として $f : S \rightarrow \mathbb{R}, x \mapsto \dfrac{1}{x} + \dfrac{1}{x-1} $ がとれるが、明らかに $f$ は同相写像の条件を満たすので $S \simeq \mathbb{R}$ である。

(終わり)

これで可微分多様体の定義をする準備が整いました。

可微分多様体とは

定義 パラコンパクトハウスドルフ位相空間 $M$ が $m$ 次元 $C^{\infty}$ 級可微分多様体 ($m$ 次元可微分多様体) であるとは開集合と写像の組からなる座標近傍(チャート) $(U_{\lambda},\varphi_{\lambda})$ が存在して次のすべての条件を満たすことをいう:

(i) $\lbrace U_{\lambda} \rbrace _{\lambda \in \Lambda}$ は $M$ の開集合系であり開被覆である。つまり $$ \bigcup _{\lambda \in \Lambda} U_{\lambda}=M. $$

(ii) すべての $U_{\lambda}$ に対してある開集合 $V_{\lambda} \subseteq \mathbb{R}^{m}$ が存在して、 $\varphi_{\lambda} : U_{\lambda} \rightarrow V_{\lambda}$ は同相写像である。

(iii) 任意の$\lambda,\mu \in \Lambda$ に対して、$U_{\lambda} \cap U_{\mu} \ne \varnothing$ であるとき $\varphi_{\mu} \circ \varphi_{\lambda}^{-1} : \varphi_{\lambda}(U_{\lambda} \cap U_{\mu}) \rightarrow \varphi_{\mu}(U_{\lambda} \cap U_{\mu})$ は $C^{\infty}$ 級である。

意味不明ですね。笑

パラコンパクトハウスドルフとかわからなくてもいいですが、重要なのは(iii)です。

感覚的に説明すると、$\varphi_{\mu} \circ \varphi_{\lambda}^{-1} : \varphi_{\lambda} (x) \mapsto \varphi_{\mu} (x)$ が $C^{\infty}$ 級関数であるというのは「$M$の開集合で被った部分があるとき滑らかに張り合わせることができる」という感じです。

この性質が後ほど活躍することを頭に置いておいてください。

とはいっても、例を見ないとしょうがないですね。

問題 単位円 $S^{1}=\lbrace (\cos \theta, \sin \theta) \in \mathbb{R}^{2} \, | \, 0 \leq \theta < 2\pi \rbrace$ は $1$ 次元可微分多様体であることを示せ。

解答 $S^{1}$ が(パラコンパクトハウスドルフ)位相空間であることは確かめられる。

$U_{1} := \left \lbrace(\cos \theta , \sin \theta) \, \left | \, 0 < \theta <\dfrac{3}{2}\pi \right. \right \rbrace,$ $U_{2} := \left \lbrace(\cos \theta , \sin \theta) \, \left | \, \pi < \theta <\dfrac{5}{2}\pi \right. \right \rbrace$ と開被覆を取る。

$\mathbb{R}$ の部分集合であり開集合である2つの集合を $V_{1}=\left (0, \dfrac{3}{2} \pi \right),$ $V_{2}=\left (\pi, \dfrac{5}{2} \pi \right)$ と取れば、$\varphi_{1} : U_{1} \rightarrow V_{1}, (\cos \theta, \sin \theta) \mapsto \theta,$ $\varphi_{2} : U_{2} \rightarrow V_{2}, (\cos \theta, \sin \theta) \mapsto \theta$ はそれぞれ同相写像となる。

いま、$\varphi_{2} \circ \varphi_{1}^{-1}$ は $C^{\infty}$ 級であるからすべての条件を満たすことが確認された。

(終わり)

ここで微分同相という言葉を紹介しておきましょう。

定義 $M,N$ を可微分多様体とする。

写像 $f: M \rightarrow N$ が同相写像であって $C^{\infty}$ 級、かつ $f^{-1}$ も $C^{\infty}$ 級であるとき $f$ を微分同相写像であるという。

微分同相写像 $f: M \rightarrow N$ が存在するとき、$M$ と $N$ は微分同相であるという。

感覚的に言えば、微分同相写像とは $M$ と $N$ を形を保ちながら滑らかにつなぐ写像という意味です。

この定義は後ででてくるので覚えておいてください。

接ベクトル

試しに $\mathbb{R}^{3}$ 上で $\alpha<t<\beta$ によって媒介変数表示された曲線 $C : \boldsymbol{r}(t)=(r^{1}(t),r^{2}(t),r^{3}(t))$ を考えましょう。

このとき、$C$ の $t$ による接ベクトルは

$$ \frac{\text{d}\boldsymbol{r}(t)}{\text{d}t}=\left( \frac{\text{d}r^{1}(t)}{\text{d}t}, \frac{\text{d}r^{2}(t)}{\text{d}t}, \frac{\text{d}r^{3}(t)}{\text{d}t} \right) $$

となります。

これは曲線 $C$ の接線方向を向いてるので接ベクトルと言われます。

ここで、$\mathbb{R}^{3}$ 上のスカラー場 $f:\mathbb{R}^{3} \rightarrow \mathbb{R}$ を考えてみましょう。

すると、そのスカラー場 $f$ の $\boldsymbol{r}$ に沿った $t$ による微分は合成関数の微分より

\begin{eqnarray} \frac{\text{d}f}{\text{d}t}&=&\frac{\partial f}{\partial r^{1}} \frac{\text{d} r^{1}}{\text{d} t}+\frac{\partial f}{\partial r^{2}} \frac{\text{d} r^{2}}{\text{d} t}+\frac{\partial f}{\partial r^{3}} \frac{\text{d} r^{3}}{\text{d} t} \\ &=&\left( \frac{\text{d} r^{1}}{\text{d} t} \frac{\partial}{\partial r^{1}} + \frac{\text{d} r^{2}}{\text{d} t} \frac{\partial}{\partial r^{2}}+ \frac{\text{d} r^{3}}{\text{d} t} \frac{\partial}{\partial r^{3}} \right)f \\ &=& \left( \frac{\text{d} r^{i}}{\text{d} t} \frac{\partial}{\partial r^{i}} \right) f \end{eqnarray}

となります(最後はアインシュタインの縮約記法で書いています)。

この $\dfrac{\text{d}}{\text{d}t}=\dfrac{\text{d} r^{i}}{\text{d} t} \dfrac{\partial}{\partial r^{i}}$ を微分作用素とみなすことで、接ベクトルをうまく定義できるというわけです。

接ベクトル束

$m$ 次元可微分多様体 $M$ のある座標近傍 $(U_{i},\varphi_{i})$ が存在して、$p \in U_{i}$ に対して $\varphi_{i}(p)=(x^{1},\cdots,x^{m}) \in \mathbb{R}^{m}$ であるとします。

この状況を「点 $p$ での局所座標が $(x^{1},\cdots,x^{m})$ である」といいます。

その条件のもと、その点 $p$ での接ベクトルを集めた集合 $$ \text{T}_{p} (M) := \left \lbrace \left. X^{\mu} \dfrac{\partial}{\partial x^{\mu}} \, \right | \, X^{\mu} \in \mathbb{R}^{m} \right \rbrace $$ を点 $p$ での接空間といいます。

さらに、そのすべての接空間の和集合を接ベクトル束といい、 $$ \text{T} (M) := \bigcup _{p \in M} \text{T}_{p} M $$ で定義します。

この接ベクトル束は特別な性質を持っていて、それはのちのち解説するとしますがこれによりベクトル場が定義できます。

定義 可微分多様体 $M$ 上のベクトル場 $\boldsymbol{A}$ を写像 \begin{eqnarray} \boldsymbol{A}: &M& \rightarrow \text{T}(M) \\ &p& \mapsto \boldsymbol{A}(p) \in \text{T}_{p}(M) \end{eqnarray} で定義する。

ベクトル場の全体を $\mathfrak{X}(M)$ と書く。

また、ベクトル場 $\boldsymbol{A},\boldsymbol{B},$ 関数 $f: M \rightarrow \mathbb{R}$ に対して

\begin{eqnarray} (\boldsymbol{A}+\boldsymbol{B})(p)&=&\boldsymbol{A}(p)+\boldsymbol{B}(p) \\ (f \boldsymbol{A})(p) &=& f(p) \boldsymbol{A}(p) \end{eqnarray}

と定める。

注目すべき点は $\boldsymbol{A}(p) \in \text{T}_{p}(M)$ です。

今は理解不能でもいいです。

この定義がのちのち活躍することになります。

また、$\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}$ をベクトル場として新しく作られる作用素 $\boldsymbol{B} \boldsymbol{A}$ はどのように定義したらよいのでしょうか。

ここで定義したベクトル場は1階の偏微分であることから、 $\boldsymbol{B} \boldsymbol{A}$ は2階の偏微分となります。

ここで、あとから出てくるベクトル場の交換子積について言及しておきましょう。

リー括弧と言われる記号を導入します。

定義 $\boldsymbol{A}, \boldsymbol{B}$ をベクトル場とする。

このとき、$\boldsymbol{A}$ と $\boldsymbol{B}$ の交換子積を

$$ [\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}] := \boldsymbol{A}\boldsymbol{B} - \boldsymbol{B}\boldsymbol{A} $$

と定義する。

$[]$ をリー括弧と呼ぶ。

$\boldsymbol{A}$ と $\boldsymbol{B}$ がともに可微分多様体 $M$ 上のベクトル場であるとき、 $[\boldsymbol{A},\boldsymbol{B}]$ もまたベクトル場になります。

証明はここではしないので本を見てください。

双対ペアリング

$V$ を $m$ 次元線形空間とし、$V^{*}$ を $V$ の双対空間とします。

詳しい定義は線形代数の教科書を見ていただきたいのですが、ここでは天下り的に定義を与えてしまいますね。

ここで双対ペアリング $\langle \, , \rangle : V^{*} \times V \rightarrow \mathbb{R}$ を双線形写像とします。

$e_{1}, \cdots ,e_{m}$ を $V$ の基底、$f^{1}, \cdots ,f^{m}$ を $V^{*}$ の基底とします。

そのとき $\langle f^{\nu} , e_{\mu} \rangle = \delta_{\mu}^{\nu}$ という条件を課します。

これが双対ペアリングの定義です。

と言っても、双対ペアリングの明示式を与えないと何が起きてるのがわからないと思います。

この記事でも解説している通り、全微分と偏微分では変換行列が互いに逆行列の関係になっています。

これは線型空間とその双対空間に相当する関係です。

ゆえ、双対ペアリングを次のように定義しても何ら問題ないことが言えます。

定義 $m$ 次元可微分多様体 $M$ の点 $p$ での局所座標を $(x^{1},\cdots,x^{m})$ とする。

このとき、双対ペアリングを双線形写像 $\langle \, , \rangle$

$$ \left \langle \text{d}x^{\nu}, \frac{\partial}{\partial x^{\mu}} \right \rangle = \delta_{\mu}^{\nu} $$

で定義する。

これによりテンソルが定義できます。

テンソル

詳しくは別の記事で書いてるので簡単に述べるのでとどめますが、簡単に言えばテンソルとは双線形写像の一種です。

偏微分の基底変換をするときに現れる成分を反変成分といい、全微分の基底変換をするときに現れる成分を共変成分といいます。

それを利用して基底を双線形写像 $\otimes$ でつなぎ、多重線型性を持たせたものがテンソルです。

明示式を与えましょう。

定義 $(\boldsymbol{x})$ を可微分多様体 $M$ 上の局所座標とする。

$$ \text{T}_{{\nu}_{1} \cdots {\nu}_{s}}^{{\mu}_{1} \cdots {\mu}_{r}} \frac{\partial}{\partial x^{{\mu}_{1}}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial}{\partial x^{{\mu}_{r}}} \otimes \text{d}x^{{\nu}_{1}} \otimes \cdots \otimes \text{d}x^{{\nu}_{s}} $$

を $r$ 階反変 $s$ 階共変テンソルという。

また、可微分多様体 $M$ の各点にテンソルが与えられているとき、それをテンソル場と呼び $r$ 階反変 $s$ 階共変テンソル場を $\text{T}_{s}^{r}(M)$ で表す。

実感が湧かなかったら、テンソルとは線形性を持った、変数が山のようにある数の組だと思ってください。

そんなイメージで今は十分です。

それでは微分形式の世界に足を踏み入れましょう。