この記事は私が「量子力学I (岩波書店)」「量子力学II (岩波書店)」を読んで分かりづらかった部分を補完していく内容の備忘録となっています。
冗長な部分はすっ飛ばして記事にしているので「量子力学I」を手元において本文を読むのがおすすめです。
それではさっそく始めましょう。
アインシュタインの縮約記法
一般相対性理論でもそうですが、これから添え字が大量に出てきてうざいのでアインシュタインの縮約記法をバンバン使っていきます。
ここで説明するのはめんどくさいのでこの記事の縮約記法の項目を読んでください。
波動方程式
ここで、波の速度を $v$ とすると $v= \nu \lambda$ より $v=\dfrac{\omega}{|\boldsymbol{k}|}$ となります。
ためしに電磁波の波動方程式を導いてみましょう。
$\phi(\boldsymbol{r},t)$ の $t$ による2階偏微分を求めると
\begin{eqnarray} \frac{\partial^{2} \phi(\boldsymbol{r},t)}{\partial t^{2}} &=& \frac{\partial^{2}}{\partial t^{2}} (a \cos (\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}-\omega t -\alpha)) \\ &=& -a \omega^{2} \cos (\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}-\omega t -\alpha). \end{eqnarray}
また、$\boldsymbol{r}=(r^{1},r^{2},r^{3}), \boldsymbol{k}=(k_{1},k_{2},k_{3})$ と成分表示して添字を振ります。
$\phi$ のラプラシアンを求めると、偏微分の連鎖律より
\begin{eqnarray} \Delta \phi(\boldsymbol{r},t) &=& \Delta (a \cos (\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}-\omega t-\alpha)) \\ &=& \sum_i \frac{\partial^{2}}{\partial {r^{i}}^{2}} ( a \cos (k_{j} r^{j}-\omega t-\alpha) ) \\ &=& \sum_i \frac{\partial}{\partial {r^{i}}} \left( -a \sin (k_{j} r^{j}-\omega t -\alpha) \frac{\partial}{\partial r^{i}} (k_{j} r^{j}) \right) \\ &=& \sum_i \frac{\partial}{\partial {r^{i}}} \left( -a \sin (k_{j} r^{j}-\omega t -\alpha) k_{j} \delta^{j}_{i} \right) \\ &=& \sum_i \frac{\partial}{\partial {r^{i}}} \left( -a \sin (k_{j} r^{j}-\omega t -\alpha) k_{i} \right) \\ &=& \sum_i \left( -a \cos (k_{j} r^{j}-\omega t -\alpha) k_{i} \frac{\partial}{\partial r^{i}} (k_{j} r^{j}) \right) \\ &=& - \sum_i a k_{i}^{2} \cos (k_{j} r^{j}-\omega t -\alpha) \\ &=& -a |\boldsymbol{k}|^{2} \cos (\boldsymbol{k} \cdot \boldsymbol{r}-\omega t -\alpha). \end{eqnarray}
以上より、光速を $c$ として $c=\dfrac{\omega}{|\boldsymbol{k}|}$ より
$$ \frac{\partial^{2} \phi}{\partial x^{2}} + \frac{\partial^{2} \phi}{\partial y^{2}} + \frac{\partial^{2} \phi}{\partial z^{2}} -\frac{1}{c^{2}} \frac{\partial^{2} \phi}{\partial t^{2}}=0 $$
が得られます。
これが電磁波の波動方程式です。
この波動方程式から波の干渉や反射の法則などが導けます。
気になる人はやってみてください。
ゼーマン効果
ゼーマンにより、「カドミウム原子を磁場中に置くと1本だったスペクトルが3本に分裂する」という現象が発見されました。
この現象をゼーマン効果といいます。
その3本のスペクトルの角振動数は、磁場中の磁束密度の大きさを $B$ として $\omega_{0}, \, \omega_{0} \pm \dfrac{e}{2m_{\text{e}}}B$ で表されます。
電子が等速円運動しているという古典力学のモデルで説明できるゼーマン効果(正常ゼーマン効果)もあるのですが、それでは全く説明できないゼーマン効果(異常ゼーマン効果)も出現してきました。
これは量子力学の概念により完璧に説明されます。
ボルツマン因子
ためしに一辺が長さ $L$ の立方体を考えます。
その立方体は無数の気体分子で満たされていてその分子1つの質量を $m$ とし、立方体の上下を走る方向に $z$ 軸をとります。
この立方体に重力を与え、重力とは反対方向を $z$ 軸の正にとります。
立方体内の温度は一様で $T,$ 重力加速度を $g$ とします。
そのとき何が起きるか考えてみましょう。
$z=r$ と $z=r+\text{d}r$ の間(体積素片)の気体分子の数を $N(r) \text{d}V=L^{2}N(r)\text{d}r$ と書くことにします。
$N(r)$ が分子数密度です。
$\text{d}r$ が微小なとき、重力の影響による分布のばらつきは無視できます。
$z=r$での圧力を $P(r)$ とすると、体積素片の上面の圧力のほうが低く $z$ 軸を上側を正にとっていることから、それらの圧力の差は
$$ P(r)-P(r+\text{d}r)=-\frac{\text{d}P(r)}{\text{d}r} \text{d}r $$
でありこの値は正になります。
この圧力差(と断面積の積)と重力がつりあっているので、
\begin{eqnarray} -\frac{\text{d}P(r)}{\text{d}r} \text{d}r \cdot L^{2}-mgN(z) \text{d}V=0 \iff \frac{\text{d}P(r)}{\text{d}r}=-mgN(r). \end{eqnarray}
いま、理想気体の状態方程式より $P(r)=N(r)k_\text{B}T$ です。
代入して
$$ \frac{\text{d} N(r)}{\text{d}r}=-\frac{mg}{k_\text{B}T}N(r) $$
という微分方程式を得ます。
この方程式を解くと、$N(r)=N(0) \exp \left( -\dfrac{mg}{k_\text{B}T}r \right)$ という解が得られます。
これで全分子数 $N$ が求められますね。
\begin{eqnarray} N&=&\int^{L}_{0}N(z)L^{2}\text{d}z \\ &=& L^{2}N(0)\frac{k_\text{B}T}{mg} \left(1-\exp \left( -\frac{mg}{k_\text{B}T}L \right) \right) \end{eqnarray}
となります。
さて、$N$ 個の分子のうちひとつをとってきてそれが体積素片の中にいる確率を $w(r)\text{d}r$ と書くと、$C$ を定数として
\begin{eqnarray} w(r) \text{d}r &=& \frac{L^{2}N(r)\text{d}r}{N} \\ &=& \frac{N(r)\text{d}r}{N(0)\frac{k_\text{B}T}{mg} \left(1-\exp \left( -\frac{mg}{k_\text{B}T}L \right) \right)} \\ &=& \frac{\exp \left( -\dfrac{mg}{k_\text{B}T}r \right)\text{d}r}{\frac{k_\text{B}T}{mg} \left(1-\exp \left( -\frac{mg}{k_\text{B}T}L \right) \right)} \\ &=& C \exp \left( -\dfrac{mgr}{k_\text{B}T} \right)\text{d}r. \end{eqnarray}
ここで、重力場によるポテンシャルエネルギーが $E=mgr$ であることから $w(r)=C \exp \left( -\dfrac{E}{k_\text{B}T} \right)$ となります。
この $\exp \left( -\dfrac{E}{k_\text{B}T} \right)$ をボルツマン因子と呼びます。
ここで、ポテンシャルエネルギーの種類に依らず $w(r) \text{d}r$ がボルツマン因子に比例するという有名な定理があります。
ここでは詳しく述べるのはやめておきますが、気になる人は統計力学の教科書を読んでみてください。
古典力学の正準形式
一般に、系のエネルギーを粒子の位置と運動量の関数として表した関数をハミルトニアンといいます。
$x$ 軸(鉛直上方を正、初期位置を $x=0$ )に沿って自由落下運動しているひとつの粒子を考えます。
粒子の質量を $m,$ 重力加速度を $g$ としたとき、
$$ H=\frac{p_{x}^{2}}{2m}+mgx $$
と表されます。
これこそがハミルトニアンです。
ここで用語を補足していきます。
位置と運動量を合わせて正準変数と呼びます。
その2つが粒子の動きを決定づけるからです。
また、次の2式を合わせて正準運動方程式と呼びます。
\begin{eqnarray} \begin{cases} \dfrac{\text{d}x}{\text{d}t}=\dfrac{\partial H}{\partial p_{x}} \\ \dfrac{\text{d}p_{x}}{\text{d}t}=-\dfrac{\partial H}{\partial x} \end{cases} \end{eqnarray}
上のハミルトニアンの例でやってみましょう。
位置と運動量が独立な変数であることに注意して、
\begin{eqnarray} \begin{cases} \dfrac{\text{d}x}{\text{d}t}=\dfrac{\partial H}{\partial p_{x}} \\ \dfrac{\text{d}p_{x}}{\text{d}t}=-\dfrac{\partial H}{\partial x} \end{cases} &\iff& \begin{cases} \dfrac{\text{d}x}{\text{d}t}=\dfrac{p_{x}}{m}+mg \dfrac{\text{d}x}{\text{d}p_{x}} \\ \dfrac{\text{d}p_{x}}{\text{d}t}=-\dfrac{p_{x}}{m}\dfrac{\text{d}p_{x}}{\text{d}x}-mg \end{cases} \\ &\iff& \begin{cases} \dfrac{\text{d}x}{\text{d}t}=\dfrac{p_{x}}{m} \\ \dfrac{\text{d}p_{x}}{\text{d}t}=-mg. \end{cases} \\ \end{eqnarray}
これは自由落下の式そのものですね。
多粒子系になっても変数の数が増えるだけで考え方は同じです。