この記事の続きです。
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まだ読まれてない方は先にどうぞ。
この記事ではリー群を取り扱います。
*この記事は「微分幾何入門(森北出版)」の解説です。この記事の内容だけでは完全な学習になりません。必ず書籍を手元において学習を進めてください。
リー微分のアイデア
これまで多様体上にベクトル場や微分形式を定義してきましたが、これからはそのベクトル場や微分形式をどうやって微分していくかを考えます。
高校数学を振り返ってみれば、関数 $f(x)$ の導関数は
$$
\frac{\text{d} f(x)}{\text{d}x} := \lim _{h \to 0} \frac{f(x+h)-f(x)}{h}
$$
で定義されるのでした。
ですが $m$ 次元可微分多様体 $M$ 上では点の近づけ方が無数あり、上手く導関数を定めることができません。
そこでベクトル場に沿って微分するというアイデアを使います。
積分曲線の定義を見てみましょう。
この積分曲線を使って $M$ から $M$ への写像を定義しましょう。
これはどんな現象を表しているのかというと、$t=0$ を初期位置として $p \in M$ が $X$ の積分曲線に沿って変化していく感じです。
流れには重要な性質があります。
これは $\mathbb{R}$ 上の加算と $\text{Map}(M,M)$ 上の写像の合成を結ぶ群準同型になっていますね。
群と群準同型について軽く復習しておきましょう。
ちなみに、すべての $g,h \in G$ に対して $g \ast h = h \ast g$ が成り立つような群 $G$ を可換群といいます。
明らかに $(\mathbb{R},+)$ は可換群です。
また、写像の合成 $\circ$ は結合的であり $\varphi _{s+t}(p)=(\varphi _{s} \circ \varphi _{t})(p)$ および $\varphi _{0}(p) =p$ が成立することから $(\varphi _{t}, \circ)$ も可換群をなします。
これが $1$-パラメータ群と呼ばれるものです。
スカラー関数のリー微分
これから $m$ 次元可微分多様体 $M$ 上に定義されるリー微分について見ていきましょう。
まずはスカラー関数のリー微分です。
スカラー関数とは写像 $g : M \rightarrow \mathbb{R}$ であってベクトル場でも微分形式でもないものをいいます。
ここで $X$ を $M$ 上のベクトル場とし、$\varphi _{t}(p)$ を流れとします。
これによりスカラー関数に対するリー微分が定義されます。
これは定義ですが、なんのことだかわからないと思うのでさっそく計算してみましょう。
よって $g$ がスカラー関数の場合、$\mathcal{L} _{X} g=Xg$ となります。
ベクトル場のリー微分
次はベクトル場 $Y(\boldsymbol{x})=Y^{\nu}(\boldsymbol{x})\dfrac{\partial}{\partial x^{\nu}}$ をリー微分していきましょう。
さきほどと同じように考えて $\lim _{\Delta t \to 0} \dfrac{Y(\varphi _{\Delta t}(\boldsymbol{x}))-Y(\boldsymbol{x})}{\Delta{t}}$ としたいところですが、$\varphi _{\Delta t}(\boldsymbol{x})$ と $\boldsymbol{x}$ では座標が異なるためそのままでは上手く引けません。
そこで変数変換、つまり押し出しを使います。
ベクトル場に対するリー微分を定義しましょう。
押し出しを使うことにより同じ座標でベクトル場の差を求めることができるようになりました。
さっそく計算しましょう。
よって $Y$ がベクトル場のとき、$\mathcal{L} _{X} Y=[X,Y]$ となります。
微分形式のリー微分
今度は微分形式をリー微分していきます。
ベクトル場のリー微分にならい、今度は引き戻しを使ってリー微分を定義します。
さっそく計算しましょう。
よって、$\omega$ が微分形式のとき $\mathcal{L} _{X} \omega=\text{d} (\iota _{X} \omega)+\iota _{X} (\text{d} \omega)$ となります。
また、証明はめんどくさいのでしませんが一般のテンソルに対してもリー微分が定義でき、
$$
\mathcal{L} _{X} (T_{1} \otimes T_{2}) = (\mathcal{L}_{X} T_{1}) \otimes T_{2} + T_{1} \otimes (\mathcal{L} _{X} T_{2})
$$
を満たします。
リー代数とリー群
これまでのことをまとめましょう。
スカラー関数 $g$ に対しては $\mathcal{L} _{X} g=Xg.$
ベクトル場 $Y$ に対しては $\mathcal{L} _{X} Y=[X,Y].$
微分形式 $\omega$ に対しては $\mathcal{L} _{X} \omega= \text{d}(\iota _{X} \omega) + \iota _{X} (\text{d} \omega).$
テンソル $T_{1},T_{2}$ に対しては $\mathcal{L} _{X} (T_{1} \otimes T_{2}) = (\mathcal{L}_{X} T_{1}) \otimes T_{2} + T_{1} \otimes (\mathcal{L} _{X} T_{2}).$
ここでリー代数を定義します。
ここで、交代性よりリー括弧積は2番目の引数に対しても線形性を満たし双線形となります。
ベクトル場に定義された $[X,Y]=XY-YX$ は上記3つの条件を満たすのでリー括弧積といえます。
一つのわかりやすい例として、ベクトルの外積 $[\boldsymbol{u},\boldsymbol{v}]=\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{v}$ を想像してみてください。
(i) $\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{v} = -\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{u}$
(ii) $(a \boldsymbol{u} + b \boldsymbol{v}) \times \boldsymbol{w} = a \boldsymbol{u} \times \boldsymbol{w} + b \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{w}$
(iii) $(\boldsymbol{u} \times \boldsymbol{v}) \times \boldsymbol{w} + (\boldsymbol{v} \times \boldsymbol{w}) \times \boldsymbol{u} + (\boldsymbol{w} \times \boldsymbol{u}) \times \boldsymbol{v} =0$
これらの条件からリー括弧積は外積の一般化であるといえます。
リー群についても見ておきましょう。
群の中には $k$ 次対称群 $\mathfrak{S} _{k}$ のように不連続なものもありますが、リー群はその中でも連続で微分可能なものです。
この性質が後々活躍していくことになります。
線形リー群
ここではリー群の中でも物理学で特に活躍するものを紹介しましょう。
まずは一般線型群 (General linear group) $\text{GL} _{n}(\mathbb{R})$ です。
これは $n \times n$ で実数成分の正則行列を集めてできた群で、演算は行列の積です。
これが群であることは簡単に確かめられます。
次に特殊線型群 (Special linear group) $\text{SL} _{n} (\mathbb{R})$ で、$\text{GL} _{n} (\mathbb{R})$ の中でも行列式が $1$ の行列を集めてできる群です。
準同型 $\det (AB) = \det A \det B$ が成り立つことからこれも群であることが確かめられます。
同様に、$n \times n$ の実直交行列からなる群を直交群 (Orthogonal group) と呼び $\text{O}(n)$ で表し、その中でも行列式が $1$ の行列を集めた群を特殊直交群 (Special orthogonal group) といい $\text{SO}(n)$ で表します。
2つの直交行列の積はまた直交行列になることから群をなすことは明らかです。
最後にユニタリ群について紹介しましょう。
行列 $A$ を $n \times n$ の複素数成分の正則行列とします。
$A$ のエルミート共役 $A^{\dagger}$ (または $A^{\ast}$)は $A$ の成分の複素共役をとって転置した行列を表すことにし、$A^{\dagger}:=(\bar{A})^{\top}=\overline{(A^{\top})}$ とします。
このとき $A$ がユニタリ行列 (unitary matrix) であるとは、$I$ を単位行列として $A A^{\dagger} = A^{\dagger} A = I$ を満たすことをいいます。
$n \times n$ のユニタリ行列を集めてできた群を $\text{U}(n)$ で表し、ユニタリ群 (unitary group) と呼びます。
また、ユニタリ行列の中でも行列式が $1$ のものを集めてできる群を $\text{SU}(n)$ で表し、特殊ユニタリ群 (special unitary group) と呼びます。
ここでは $\text{SU}(n)$ が群をなすことを確かめてみましょう。
特殊ユニタリ群はゲージ理論においても重要になってくるので頭の片隅に置いておいてください。
リー代数とリー群の関係
私が最初にリー代数とリー群の定義を見たとき、全く別の概念であるように感じていました。
ですが実際は両者は密接に結びついていて、リー代数には対応するリー群が、同様にリー群には対応するリー代数があります。
リー群が大域的な対称性を記述するものだとすれば、リー代数は局所的な対称性を記述するものだと言えます。
リー代数は線形性があるので研究しやすく、リー群とリー代数は行き来できるのでその性質を利用できるというわけです。
ためしに$2 \times 2$の特殊ユニタリ群 $\text{SU}(2)$ に対応するリー代数 $\mathfrak{su}(2)$ を導いてみましょう。
その前に行列の指数関数を定義します。
テイラー展開に行列を代入したような形ですね。
この指数関数こそがリー群とリー代数の架け橋です。
これを使いリー代数を導きます。
特殊ユニタリ群 $\text{SU}(2)$ は $AA^{\dagger}=I, \, \det A= 1$ を満たす $2 \times 2$ 行列 $A$ の集まりでした。
いきなりですが $t$ を実数、$P$ を行列としてこの定義に $A= e^{tP}$ を代入すると、$e^{tP}(e^{tP})^{\dagger}=I, \, \det e^{tP}=1$ が得られます。
(i) $e^{tP}(e^{tP})^{\dagger}=I$
エルミート共役 $\dagger$ は線形性を満たすので $(e^{tP})^{\dagger}=e^{tP^{\dagger}}$ が得られ、指数関数の性質より
\begin{eqnarray}
e^{tP}(e^{tP})^{\dagger} &=& e^{tP}e^{tP^{\dagger}} \\
&=&e^{t(P+P^{\dagger})} \\
&=& I.
\end{eqnarray}
この条件が満たされるのは $P+P^{\dagger}$ が零行列のとき、つまり $P^{\dagger}=-P$ のときに限ります。
(ii) $\det e^{tP}=1$
補題を示します。
本題に戻りましょう。
$\det e^{tP}=1$ より、
\begin{eqnarray}
\det e^{tP}&=&e^{\text{tr}(tP)} \\
&=& e^{t \cdot \text{tr}(P)} \\
&=& 1.
\end{eqnarray}
よって $t \cdot \text{tr}(P)=0,$ つまり $\text{tr}(P)=0$ を得ます。
以上より $P^{\dagger}=-P, \, \text{tr}(P)=0$ の条件を得ます。
これがリー代数 $\mathfrak{su}(2)$ に課された条件です。
次に具体的な行列表示を求めていきましょう。
$$
P=\pmatrix{a^{1}_{1}+b^{1}_{1}i & a^{1}_{2}+b^{1}_{2}i \\ a^{2}_{1}+b^{2}_{1}i & a^{2}_{2}+b^{2}_{2}i}
$$
と表すと、
(i) $P^{\dagger}=-P$
$$
\pmatrix{a^{1}_{1}-b^{1}_{1}i & a^{2}_{1}-b^{2}_{1}i \\ a^{1}_{2}-b^{1}_{2}i & a^{2}_{2}-b^{2}_{2}i} = -\pmatrix{a^{1}_{1}+b^{1}_{1}i & a^{1}_{2}+b^{1}_{2}i \\ a^{2}_{1}+b^{2}_{1}i & a^{2}_{2}+b^{2}_{2}i}
$$
より $a^{1}_{1}=a^{2}_{2}=0. \, a^{1}_{2}=-a^{2}_{1}, \, b^{1}_{2}=b^{2}_{1}$ を得ますね。
(ii) $\text{tr}(P)=0$
\begin{eqnarray}
\text{tr} \pmatrix{a^{1}_{1}+b^{1}_{1}i & a^{1}_{2}+b^{1}_{2}i \\ a^{2}_{1}+b^{2}_{1}i & a^{2}_{2}+b^{2}_{2}i} &=& a^{1}_{1}+b^{1}_{1}i+a^{2}_{2}+b^{2}_{2}i \\
&=& 0
\end{eqnarray}
より $a^{1}_{1}+a^{2}_{2}=b^{1}_{1}+b^{2}_{2}=0$ を得ます。
以上より、$b^{1}_{1}=a, a^{1}_{2}=b, b^{1}_{2}=c$ を実数とすると
$$
P=\pmatrix{ia & b+ic \\ -b+ic & -ia}
$$
が得られました。
これがリー代数 $\mathfrak{su}(2)$ の一般系です。
また、リー括弧積 $[X,Y]$ は $X,Y$ を行列として $[X,Y]=XY-YX$ と定義されます。
よって $\text{SU}(2)$ のリー代数 $\mathfrak{su}(2)$ は
$$
\mathfrak{su}(2) = \left \lbrace a,b,c \in \mathbb{R} \left | \pmatrix{ia & b+ic \\ -b+ic & -ia} \right . \right \rbrace, \, [X,Y] =XY-YX
$$
で表されます。
最後に、リー代数の条件である $[,] : V \times V \rightarrow V$ を確かめないといけません。
行列表示から直接確かめることもできますが、ここではエレガントな方法で証明しましょう。
リー代数 $\mathfrak{su}(2)$ の基底として
$$
T_{1} = \frac{i}{2} \pmatrix{0 & 1 \\ 1 & 0}, \, T_{2} = \frac{i}{2} \pmatrix{0 & -i \\ i & 0}, \, T_{1} = \frac{i}{2} \pmatrix{1 & 0 \\ 0 & -1}
$$
が取れます。ここで、これらの係数 $\dfrac{i}{2}$ を外した行列3つはパウリ行列と言われるものです。
簡単な計算により $[T_{1}, T_{2}] = T_{3}, \, [T_{2}, T_{3}] = T_{1}, \, [T_{3}, T_{1}] = T_{2}$ が分かります。
$\mathfrak{su}(2)$ の元はこれら3つの基底で書かれることから $[,] : \mathfrak{su}(2) \times \mathfrak{su}(2) \rightarrow \mathfrak{su}(2)$ が証明されました。
ここから先は第4章に続きます。
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